東京スカイツリーで４日、首都直下地震を想定した外国人観光客の避難訓練が行われ、中国人やアメリカ人など約１５０人が参加しました。４年後の東京オリンピック・パラリンピック大会に向けて、政府は海外からの観光客を４０００万人（年間）にする目標を掲げていますが、地震や台風などの自然災害が起きたとき、多様な国から訪れた人たちに、適切な情報を伝える態勢は整っているのでしょうか。課題を取材しました。

「日本で地震が起きたらどうしますか？」

まずは海外から多くの観光客が訪れる東京・浅草の浅草寺の前でインタビューしました。答えてくれたのはイギリス、スペイン、タイ、ガーナなど８つの国から観光に訪れた人たちです。「地震が起きたらどうする？」という問いに対して最も多かった答えが、「今まで地震にあった経験がないのでわからない、考えたこともない」でした。クウェートから来たという３０歳の男性は「日本は地震が多いことは知っていますが…ホテルに避難用のリーフレットはあったのですが、読んでいません」とのことでした。

ではもし地震があったらどう行動するか聞いたところ、「警察に行く」、「みんなが走っているほうに走る」、「インターネットやＳＮＳで調べる」など。ネットなどを調べる際は、「安全な場所はどこか」、「何をすればいいか」、「いつまでその場所にいればいいか」といった具体的な情報を知りたいという声が聞かれました。

ことし４月に震度６弱の地震に襲われた大分県別府市が、その後、外国人観光客に聞き取り調査をしたところ、「すべてのアナウンスが日本語だったから、何をどうしたらいいのかわからなかった」、「ツナミという言葉しか知らなかったので『ツナミは来ない』と言われてもすぐには安心できなかった」など、言語の問題で十分な支援ができなかったケースがあったということです。

官製のサイトやアプリも

大規模な災害のときに最も課題になるのが言語や習慣の違いによるコミュニケーションの壁ですが、観光庁は、いざというときに外国人観光客向けの情報を提供するサイトやアプリを提供しています。２０１３年に開設したポータルサイト「Ｓａｆｅｔｙ　ｔｉｐｓ　ｆｏｒ　ｔｒａｖｅｌｅｒｓ」では、気象や災害情報のほか、交通機関のリンクなどを掲載しています。さらに翌年に提供を始めたスマホ用アプリ「Ｓａｆｅｔｙ　ｔｉｐｓ」では、緊急地震速報のほか地震や大雨などの警報が出た際に、英語・中国語・韓国語など５つの言語で情報を提供します。今のところダウンロード数は約５万で、「短期間しか滞在しない観光客にダウンロードしてもらうことが難しく、周知が課題」（観光庁担当者）とのことでした。

「観光危機管理計画」を策定した自治体も

海外から年間１５０万人以上の観光客が訪れる沖縄県は、東日本大震災をきっかけに観光客の危機管理に本格的に取り組み、ことし４月、全国に先駆けて県の「観光危機管理実行計画」を策定しました。毎年複数が接近する台風対策に重点を置いて、外国人観光客のために多言語に対応した台風対策マニュアルや、周りの人と意思疎通できる防災コミュニケーションカード、緊急時に電話で質問に答えるコールセンターなどを設置しました。

情報の整備とともに力を入れているのが受け入れ側の支援です。ビーチリゾートや離島などモデルとなる観光地を毎年選んで、ホテルや観光協会、地元市町村の職員など複数の団体が参加して、観光客をどう避難させるかなど具体的な動きを確認します。これまでに県内２０か所でこうした研修を開催し、観光地ごとの連携を進めています。

観光と防災が連携した情報発信を

「観光危機管理」に詳しいＪＴＢ総合研究所主任研究員の河野まゆ子さんは、これまでの外国人観光客への自治体の取り組みの課題は、まず「観光」と「防災」を担当する部署が分かれ、連携できていなかった点にあると指摘しています。

「これまで観光客に向けた情報は、地域の魅力などに重点がおかれ、防災については観光離れを懸念するあまりおろそかになっていた面がありました。観光客にとっても防災だけの情報発信では届きにくいので、魅力的な観光情報と万一の防災情報を一緒にネットで発信するなど、観光と防災が連携した情報発信が必要です」と訴えています。

国によって異なる防災対応

「外国人観光客に対しても、必要な防災対策の７割くらいは日本人の場合と同じといってよいでしょう。ただし国によって災害の特徴や対応は異なります。例えば日本では地震で揺れたときはあわてて建物から避難せず机の下に隠れるなどしますが、建物の耐震性が低い国から来た人はすぐに建物から飛び出して、混乱が生じるおそれもあります。緊急時には、外国人観光客は近くにいる日本人を見て行動します。宿泊施設や土産店など、観光の最前線にいるスタッフが、災害に対する知識や避難場所などの正確な情報を理解していることが重要で、自治体が観光地全体の防災意識向上を支援していく必要があります」（河野まゆ子さん）

外国から訪れた人たちに、楽しいだけでなく、いかに「安全に」過ごしてもらうか。政府と自治体と民間企業、それに「私たち」も、４年後に向けてともに考えていく必要があります。

[출처] NHK NEWS WEB EASY (http://www3.nhk.or.jp/news/html)